ホストクラブのバースデーに運良く参加できた私が感じた正直な気持ち。

2019年11月22日ライフ

ホストクラブのバースデーに運良く参加できた私が感じた正直な気持ち。

威勢のいい掛け声とともに、積み上げられたカクテルグラスに注がれるワイン。ホストクラブのバースデーに私はたまたま参加することができた。

興味があった。ホストクラブという華やかな世界に。男なら一度は抱くであろう煌びやかな夜の世界。女を楽しませてお金を稼ぐという仕事、ホストに。

面接を受けにいった。面接官はホストだった。顔はかなりのイケメンといっていい。キリッとした瞳に整った輪郭、サラサラの髪に香水の香りが少し混じる。私は、ああ住む世界が違うなと思った。荷物をまとめて今すぐ立ち去りたかった。けれど面接は面接、非礼がないよう最低限受け答えだけはしようと相手の話に耳を傾けた。自己紹介も手短に済ませた。結果は後日連絡するとのことだった。連絡がなければ不採用だという旨も合わせて聞いた。

2,3日が過ぎた頃、ホストクラブの採用担当者から連絡が来た。面接に受かったらしい。

「いつから働ける?」

「明日からでも大丈夫です」私は即座に答えた。

「じゃあ明日の17:00にお店まで来てね。あと場所は分かるよね?面接したところと同じだから。」私は困惑しながら出来るだけ元気よく彼に返事をした。電話は一瞬で終わった。全く実感がわかなかった。なぜこんな芋っぽい私が採用されたのか分からなかった。それだけに興奮よりも不安の方が大きかった。

初出勤、私はガチガチだった。お店に着くとまだ開いていなくて、お店の前で私は待つことにした。10分後面接の時にお会いしたイケメン面接官が現れた。

「おはようございます!」私は緊張の混じる声で挨拶した。

「早いね笑、今開けるから。」そう言っておもむろに店の鍵を取り出しイケメン面接官はドアを開けた。真っ暗な店内に二人して入っていく。

「パチッ」店に明かりが灯った。店内は洗練されたボックス席が複数あり、奥にはステージが設けられていた。入り口付近の台にはDJが使用するようなミキサーが置かれ、ガラス張りのケースには高級ボトルが陳列されていた。

「こっちが控え室、カバンは適当にその辺に置いて構わないから。あと今日は体験というか、お店の雰囲気を感じてもらえればいいから。」

「はい。」緊張した面持ちで私は返事をした。

「大丈夫?緊張してる?席につくことは多分ないから安心して。」そう言ってイケメンは緊張する私に掃除道具を持たせトイレ掃除を言い渡した。トイレ掃除をしながら私は「このままずっとトイレ掃除をしていたい」と思ったわけだが、それも虚しくトイレ掃除はすぐに終わった。

開店時間が近づくにつれてホストが続々とお店へ入ってきた。最初がとにかく肝心だということで、緊張しながら一人一人に最初の挨拶をした。無視されたり、睨まれたりはしなかった。みんな普通に優しく挨拶を返してくれたので、気持ちが少し落ち着いた。

開店時間になった。私は入り口そばで立ちお客を誘導することになった。「いらっしゃいませ、どうぞ」と手を広げ、中へ案内するだけの簡単な仕事だ。適当に開いている席へ案内し、おしぼりを渡し、氷の入ったアイスペールをトングとセットでテーブルにセットできれば合格だ。あとは先輩ホストがうまくやってくれる。終始緊張する私を見かねて先輩たちは時折優しく声を掛けてくれた。

開店から一時間が過ぎた頃、店のナンバーワンがお客を連れて入ってきた。店の注目が一点に集中する中、ナンバーワンは優しくお客を席へとエスコートした。彼はオーラに包まれたように眩しく、キラキラと輝いているように見えた。一緒にいた客は美人でセクシーでそれにおっぱいも大きかった。でもナンバーワンの光の前では彼女も霞んで見えた。この日は結局席につくことは一度もなく、洗い場でグラスを洗ったり、お酒を作って出したりなど裏方業務をただただこなした。

閉店後はミーティングがあり私も参加した。ミーティングはいつもやっているようで、その日の反省点や改善点、目標などを一人一人言葉にして共有する。そういう取り組みだった。それが終わったところでホスト一日目は終了した。

翌日も私は出勤した。私は昨日と同じように店内を掃除し、客を案内し、洗い場でグラスを洗い、ドリンクを客席に運び、タバコの吸い殻を捨て、掃除をした。そんな楽しい毎日が何日か続いた。

一週間が過ぎた頃。ついに客席につくことになった。もちろん先輩ホストの客のヘルプでだ。開店前に先輩ホストから「今日は◯◯も席についてみようか。」と言われた。突然だったので、私の返事は元気がなかった。私はトイレ掃除がしたかった。今すぐこの場から逃げ出したかった。けれど逃げる事は出来なかった。

開店前に先輩ホストから注意事項と簡単なテーブルでの作法とルールを教わった。そしてお客との会話では個人的な質問は控えるようにとのことだった。特に年齢、職業などはダメだと念を押された。私は緊張した面持ちでそれらを聞いた。

時間になり店がオープンした。客が入ってくる気配はない。いつもなら早くこないかなと期待して客を待つのに今日はその反対だった。

一時間後、客がついに、客がついに入ってきた。最悪だ。客が来てしまった。やらなければならない。緊張を必死で隠し私はいつも通り客を席に案内した。おしぼりをいつも通り渡す。先輩ホストが席に着きその後少ししてから私は席へドリンクを運びながら伺った。簡単に挨拶を済ませて席に座る。とにかく緊張していたことだけは覚えている。テーブルでの決まりごとを一生懸命思い出しながらドリンクも作った。会話などできたものではない。とにかく相槌を打ち、愛想笑いをし、分かりきった当たり障りのない質問をした。別の席からオーダーが入り、キリのいいところで席を離れた。こんな感じで何席かヘルプとして席に着かせてもらって先輩ホストの巧みな話術とイケメンオーラを間近に感じながらなんとかこの日を乗り切った。

勤務からちょうど一ヶ月が経とうとしている頃だった。某日ナンバーワンのバースデーイベントが開かれることになった。前日の夜から飾りつけの準備が始まり、当日はカクテルグラスのタワーやバルーン風船で店はいつも以上に華やかになった。大量のワインがステージ両脇に並べられ物々しい雰囲気を放っていた。

店がオープンし常連客が続々と入店した。いつも広く感じる店がこの日は狭かった。時間になりイベントが始まった。高価な酒がバンバン出た。慌ただしく動くホストたち、ナンバーワンの努力を褒め讃える客たち。それはもう異常な光景だった。BGMが流れ、客が頼んだ酒をホストがグビグビと飲む。わけがわからなかったが私も掛け声に合わせてグビグビと飲んだ。タワーにワインが止めどなく注がれ、悠然と眺めるナンバーワンの姿を写す取材記者たち。インスタ映えしかしない光景に私は憧れとは違う何か別の恐ろしさを感じた。かくしてバースデーイベントは成功に終わった。

あれ以来、私の中でホストが憧れではなくなってしまった。眩しすぎたのかもしれない。客の言いようのないあの表情を見て、やるせない気持ちになったからかもしれない。

しばらくして私は店を辞めた。あの光景を見るためだけに入店したような、後から振り返ればこういう運命だったように思えて仕方がない。ホストになるのは難しいと気づかせてくれたあの煌びやかな景色を私は忘れないだろう。