【バス釣り】立ち入り禁止の池で味わった奇妙な体験

2019年11月22日ライフ

【バス釣り】立ち入り禁止の池で味わった奇妙な体験

「ガサガサ」竹やぶが揺れる音がした。私は竿を構え、覚悟を決めた。

立ち入り禁止。止められるとなぜか行ってみたくなるのが人の性というもので、私もその例に漏れず、友人と一緒に立ち入り禁止の池に通った経験がある。

立ち入り禁止の池になっているからにはそれなりの理由があって、人がその池で死んだり、事故があったりと当たり前だが危険な場所である。そこで仮に死んだとしても完全な自己責任だ。

当時私が通っていた立ち入り禁止の池は3つほどあって一つは本当に人が死んだことのある池だ。命日なのかは分からないけれど、ある時期がくるとお花が備えられていたことがあった。

二つ目の池は噂でしか聞いたことがないが、ここも人が死んでいる。らしい。ただその噂を確証付ける証拠らしきものを私は池で見つけた。鬱蒼と茂る木々に囲まれた昼間でも薄暗い池のほとりに散らばった無数のカードと身分証明書。誰かがスリをして盗んだ後、そこに捨てただけかも知れない。けれどその光景から私は別の何かを連想してしまった。近くには首をつれそうな木とツルが垂れ下がっていた。昼間にもかかわらず淀んだ空気が辺りに立ち込めるその池からは想像に難くない不穏な気配が漂っていた。

以前私は二つ目の池で奇妙な体験をした。初秋。友人と暗くなるまで私は釣りをした。あたりは暗く周りがほとんど見えなかった。もう帰らないとここはヤバすぎるそう感じた時だった。声のするはずのない山奥から女の声が聞こえてきた。何と言っていたかは覚えていなし、聞き取りたくもなかった。とにかくその声が聞こえた瞬間、背筋が凍るような、とにかくここから一刻も早く離れないとまずい。そう私は確信した。

友人は私よりも山の奥深くで釣りをしていた。友人が心配だったが聞こえたのは自分だけかも知れない。とにかく今は離れるべきだ。そう心に決め私は道具を抱え池を後にしようとした時、真っ暗な森の中から何かが飛び出してきた。私は思わず声をあげた。すると飛び出してきた何かも驚いたようで私よりも数倍大きい声をあげた。そう。飛び出してきたのは私の友人だった。

私は友人に聞いた。「どうしたん?そんなに驚いて。」友人は山道を走ってきたようで呂律が回っていない。私は恐る恐る聞いた。「さっき女の人の声が森から聞こえてきたんやけど、聞いた?」友人は唾を飲み込む。そして続けて話した「いやなんか釣りしとったんやけど、急に山の方から声が聞こえてきて怖くて走ってきたら…」「聞いたん?あの声を」「うん」私たちは怖くなって気がつくと一緒に叫んでいた。脱兎のごとく山道を駆け下りたのはいうまでもない。

三つ目の池は人が死んだという噂はなかった。ただ立ち入り禁止になっていた。そばには小さな神社があり赤い立派な鳥居もあった。山間部の池ということもありその池にはイノシシがよく出た。小さいのが走っているのを見かけたことがある。私はあの日一人でその池に向かった。雨が降ったりやんだりの釣りには割といい天気だった。

私が釣りを始めた時だった。「グゥオォォオ」後ろからこれまで聞いたことのない獣の声が聞こえてきた。イノシシの声なら聞いたことがあったから知っている。だがあの唸るようなどう猛な声を聞いたのは初めてだった。私は思った。熊だ。間違いなく。とりあえず今日は帰った方がいい。そう思って釣り道具を片付けようとしたその時、後ろの竹やぶが揺れた。

「え!?」心臓の鼓動が速くそして大きくなった。予想していたよりも早い。早すぎる。とにかく逃げることだけを考え、現状の把握に務めた。後ろは池だ。逃げるならまず一旦前の竹やぶに近づき山を下る必要がある。やらなければいけないことは分かっていた。前へ進んで山を下る。さあ行け!しかし私の足は一歩も前に進まなかった。私はなけなしの勇気で釣竿を構えた。それしかやれることがなかった。

目の前の竹藪からついにそれは姿を現した。しかし予想に反してそれは熊ではなかった。私はそれを確認し呆気にとられた。なんと竹藪から姿を現したのは熊ではなく、むさ苦しいおっさんだった。私はただただそのおっさんを見つめることしかできなかった。

あの獰猛な唸り声が再び聞こえた。私は正気を取り戻し彼に話しかけた。「大丈夫ですか?凄い鳴き声が聞こえてきましたが。」おっさんは少し動揺していたようで、「ああ、大丈夫。山菜を採りに山に入ったら、あの声が聞こえてきてこうして引き返してきたんや。あんたも今日は帰った方がいい。」私は手早く釣り道具を片付け、おっさんと山を下った。

帰り道「安全が一番。これでも食べて帰り。」そう言っておっさんはチョコレートを私にくれた。なぜチョコレートなんだとふと思ったけれど、私のこわばりをその甘さと優しさが解かしてくれた。なぜあの池が立ち入り禁止になっているのか少しわかったような気がした。立ち入り禁止の池で体験した奇妙な思い出。

この記事はあくまで体験談であり立ち入り禁止区域への侵入は非常に危険です。安全を第一に考え近づかないことはもちろんのこと絶対に中に入らないでください。あなた自身のため、そしてあなたの大切な人のために。