【バス釣り】私の幻想を雷魚があの爆発とともに吹き飛ばした。
【バス釣り】私の幻想を雷魚があの爆発とともに吹き飛ばした。
以前住んでいた場所の近くには川があった。私はネットの情報を頼りにいるかどうかも分からないブラックバスを求めて足繁くそこへ通った。けれど目的の魚はなかなか見つからなかった。
そこの川は堰で区切られていることもあって川であっても池のような境界がところどころできていた。私は上流から下流までひとしきり見て回った。色々なルアーを投げた。けれど魚を見つけることはできなかった。ネットの噂がただの噂のように思えて私はその川に通うのをやめた。
月日が過ぎた。私は故あって再び川に通う事にした。近くにブラックバスの生息する池はいくつかあったけれど通い慣れたせいもあり、違う環境で釣りをしたいという気持ちが私をあの川へと動かしたのかもしれない。
私は魚を探すため川を見て回った。何度も見てきた場所。特に代わり映えはしない。そう思いながら川を眺めていた時、不意にあの魚の姿が飛び込んできた。そうあれは紛れも無いブラックバス。何度も見て来た背中。見間違えはしない。
私は目視でその姿を確認した。場所は橋脚近くの浅瀬だった。そこをふらふらと一匹のブラックバスが泳いでいた。大雨の影響で堰の境目が曖昧になったり普段は浅過ぎて移動のできない場所が通れるようになったことが影響している気がした。とにかくそれなら説明がついた。
私はこの川の特徴を何となく捉えたような気がした。私は持っていた釣具にルアーを結びおもむろに橋脚付近の淀みや魚が止まりそうな場所にルアーを投げていった。答えはすぐに返って来た。小型だったけれどその川で初めてのブラックバス。嬉しかった。それから私は川に通った。全く同じ川なのにそれまでとは景色が違うような、私の中で何かが変わった。
5月だった。雨の影響で中流域にもバスが入って来ているのを私は目視で確認した。この日は日差しが強くなかった。少し曇り気味で風が優しく水辺の草を揺らしていた。
私は友人が作ったペンシルベイトを対岸めがけて投げ込んだ。友人が作ったルアーは小粒だったけれどよく飛んだ。友人のルアーは扱いが難しかった。ドッグウォークも少しコツがいる。だから練習を兼ねて投げていた。
私が友人のルアーを高速で動かしている時だった。川の中央部にルアーが差し掛かったところで水面が突然爆発した。同時に強烈な引きが襲った。少しよそ見をしていたために一体何事かと、慌ててドラグを調整する私がそこにはいた。けれど合わせは出来ていた。体が勝手に反応したようだ。
戦いは5分ほど続いた。川ということもあり引きが強い。目立った障害物はなかったけれど、細い糸を使っていたこともあり強引なやり取りは危険だった。バスなら相当でかい。遠くで魚のシルエットを確認した。長い。シルエットは期待に反して長細かった。
私はすぐに悟った。バスではない。ナマズだ。でもナマズは今日は狙っていない。それにナマズは確か夜行性のはず。そんな考えを巡らせながら期待薄で私は魚を陸に引き上げた。
陸に上がったそれに私は驚かされた。ナマズではなかったからだ。もちろんバスでもない。友人のハンドメイドペンシルに猛烈なアタックを仕掛けて来たのは、川に生息していた雷魚だった。
鋭い歯。独特の鱗。長い魚体。どれもが新鮮だった。それに川に雷魚がいるとは完全に予想外だった。驚きと目新しさに不思議な気持ちになったのを覚えている。
その後も私はバスを釣るために釣りを続けた。けれどこの日はこの一匹で終わった。バスは釣れなかった。けれど友人自作のハンドメイドルアーで雷魚が釣れたので釣果としては満足だった。
友人には申し訳ないが、この日雷魚を釣り上げるまで私は友人が作ったルアーを全く信用していなかった。色は奇抜。動きは普通。よく飛ぶ。特に欠点はない。けれど魚が食いついてくるイメージがどうしても湧かなかった。市販品でないと魚は釣れないと私は思い込んでいた。
市販品でないと魚は釣れない。それは私が作り出したただの幻想だった。ジェームス・へドンのあの有名なエピソードが脳裏をよぎる。私のルアーに対する考え方はこの日から少しずつ変わっていく。あの日の記憶。今尚、色褪せない。